天然たらしが本気を出す時。
鞄から取り出し、画面を見てみると見覚えのない電話番号で、一瞬出るのをためらったけれど、滅多に電話なんて来ないし誰からか気になり画面をタップした。
「……はい、もしもし」
恐る恐る出てみると
「あ、小菜ちゃん!?」
携帯の奥から聞こえてきたのは機械越しでもわかるくらい澄んだ綺麗な声だった。
「え、…麻里ちゃん?」
そう。電話をかけてきたのはさっきまで七瀬くんと電話をしていた麻里ちゃんだったのだ。
あれ、麻里ちゃんって私の電話番号知ってたっけ?
「ごめんね急に、堀北くんに電話番号聞いたの」
ああ、そういうことか。
たしかに堀北は私の電話番号知ってるもんね。
でもどうして私に電話を…?
「あのね、さっき七瀬くんに電話したら小菜ちゃんといるって言ってて…」
そして麻里ちゃんが言葉を続ける。
「私今本当に困ってて、どうしても七瀬くんの助けが必要なの…!だから小菜ちゃんから七瀬くんに来てくれるよう頼んでほしいの…」
「えっ…でも…」
「小菜ちゃんといるから来れないって言ってて」
「た、たしかに一緒にはいるけど」
「だったらお願い…!!」
「……」
「小菜ちゃん…!!」
切羽詰まったような麻里ちゃんの声。
そんな彼女に嫌だよ、なんてそんなこと言えない。
ーーーーーー……ううん、
……本当は。
本当は心の奥底では、嫌だと思ってる自分がいる。
だって七瀬くんは行かないと言ったんだ。
なんで私がわざわざ頼まないといけないの?
寝られないくらい楽しみにしていて
オシャレもメイクも頑張って
やっと訪れた日だ。
なのになんで私が頼まないといけないのって。
でも、私って本当ダメで
「…わかった。言ってみる」
麻里ちゃんの頼みを嫌だと断ることは出来なかった。
「本当!?ありがとう…!」
「それより麻里ちゃんは大丈夫なの?
怪我とかしてない?」
「うん、大丈夫だよ」
「七瀬くんにはどこへ行くよう伝えればいい?」
「私の家の近くの〇〇コンビニ。
七瀬くんに言えばわかると思うの!」
「わかった。何があったかはわからないけど落ち着いて、絶対そこから動かないでね」
「うん、小菜ちゃん本当にありがとう…!」
「うん。じゃあ一回切るね」
スマホを鞄にしまい、七瀬くんの方を見る。
「七瀬くん、麻里ちゃんのところに行って欲しい」
「………」
私の言葉に七瀬くんは何も言わない。
「ごめん」
そう謝ると
しばらくの沈黙の後
「…わかった」
その七瀬くんの言葉を聞き
麻里ちゃんの居場所を伝え
コウくんは私が責任を持って
家まで届けるということを約束し
……そして七瀬くんの後ろ姿を見送った。