天然たらしが本気を出す時。
…お兄ちゃん?
…でもお兄ちゃんはいつもノックなんてしない。
「…どうぞ?」
不思議に思いながら、ドアの向こうの人にそう言う。
そして
「入るね」
落ち着いた、その声にハッとする。
え…?
ギイイィと音を立て開かれた扉の先にいたのは
予想通りの人物で。
「さっきはごめんね」
彼が謝る必要なんてこれっぽっちもないのに、申し訳なさそうに頭を下げる彼。
「実は1時間前くらいから居たんだけど、橘さん寝てたから下でお兄さんとおかゆ作ってた」
そう言う彼の手にはお盆の上に乗ったおかゆが。
熱があるからかな。
頭が痛いからかな。
ぼーっとするんだ。
「…………………七瀬くん……」
「ん」
お盆を机の上に置き、ベットまで歩いてきた彼が
そっと私の額に手を乗せる。
「熱あったなんて知らなかった」
彼の手は、額から私の頬へとゆっくりと移動する。
熱い私の頬に、彼の手が触れ
心地の良い冷たさに安堵する。
「おかゆ食べられそう?」
いつもより低いトーンで、そしていつもより何倍も優しく話しかけてくる七瀬くん。