天然たらしが本気を出す時。
私もひとつ取り出し食べてみれば、ふわりとバターの香りが鼻をかすめ味も申し分なかった。
「これ、誰かに渡すようだった?」
その質問は唐突だった。
まあ可愛くラッピングされてあるのを見れば普通にそう思うよね。
わたしだって自分用だったらタッパにでも入れてくるだろうし。
隠す必要もないと思い
「そうだよ」
と言えば
「誰に?」
さらに突っ込まれた。
「…」
私が沈黙を守っていると
「…堀北、」
「え?」
「これ、堀北にあげるつもりだったんじゃないの」
「な、んで七瀬くんが知ってるの」
「……どれだけ見てると思ってんの」
ぼそりと何かをつぶやいた様子だったけど聞こえなくて
「え?」
と聞き返しても、ため息をつかれるだけだった。
「それで、あげなくていいの?本人に」
「うん」
「なんで?好きなんでしょ?」
「……あ、そこまでわかっちゃってる系ですか」
「まあね」
なぜ。
友達にもばれてないのに
なぜ七瀬くんにはばれてるんだ。