天然たらしが本気を出す時。

「堀北にはもう彼女がいるから、渡せない」


「…失恋?」


とてもさらりと、真顔で聞いてくるから
一瞬拍子抜けした。


もっと、こうさ…!オブラートに包むとか…!


「直球すぎない?!
…でもうーん、よくわからない」








「まあ、堀北のことそんなに好きじゃなかったんだと思うよ。好きだったらもっと辛いってなるはずだし」



よく聞くじゃん。

失恋したらご飯が食べられなくなるとか、誰とも話したくなくなるとか。


それだけ悲しくなるものなんだよ、失恋って。


でも私は?

普通に食欲あるし、その証拠にクッキーだって食べてるし、今だって七瀬くんと話してる。



普通じゃん。






「そういうもん?」


「うん、そういうもん」


「でもあいつと仲良くなるために
努力したんじゃないの?」


「してないよ。ちょっと話しかけたぐらい」


「頑張ってるじゃん、それ」


「…全然だよ」


「頑固」


「…うるさい」


「橘さん、色々ベクトル高すぎじゃない?」


「なんの?」


「辛いとか悲しいとか、努力とか苦労とか、そういうもののベクトル。俺からしたら今の橘さんはすごく辛そうに見えるし、今まで橘さんがしてきたこともすごく頑張ってたと思うんだけど」



「そう、かな…?」


「うん、そうだよ」


「…そっか…」


「前、俺が言ったこと覚えてる?」


「え?」








「また辛くなった時は呼んで。
次はちゃんと慰めてあげるってやつ」



「……あ、あぁ」



「今その時だと思っちゃっていい?」

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