天然たらしが本気を出す時。




「ん、素直でいい子。
今なら涙も拭いてあげられるけど、どうする?」



「…泣きは、しない」


「そ?じゃあ泣き顔は今度拝むことにするよ」


「…鬼か」


「なんとでも。
で、橘さんに朗報です」


「…な、に?」


「橘さんの魅力にいち早く気づいた強者が今ここにいるんだけど、そっちにしてみない?」











「…………………は、?」







「俺でいいじゃん」


「え、?」


「満足させる自信あるよ?
たくさん優しくするし、橘さんのためならなんでもできる自信あるし、俺がいないとダメって言わせるくらい甘やかしてあげるし」





ま、待って。





「弱ってるとこにつけ込むとか、ずるいってわかってるけど、ずるくてもなんでも橘さんのこと手に入れたいって思っちゃったんだよね」




待って待って。











「ねえ、考えてみてよ。俺のこと」









待てやコラァ!!!





はっ、ひどく驚いてしまったものだから
つい口が悪くなってしまった。

幸い口には出していない。よかった。

ひとつ深呼吸をして、冷静さを取り戻す。





「…すごく、いきなりだね」

「そう?俺的には結構前からタイミング測ってたからいきなりじゃないけど」

「そう、なんだ」

「あー、別に今すぐ付き合ってほしいってわけじゃないからね。いずれは付き合ってほしいと思ってるけど。…まあ、俺のことちゃんと考えてみてよ」


「冗談、ではないよね、?」

「本気だよ」

「…そっか。あ、ありがとう…」







人って驚きすぎると酷く冷静になるのだと今、身を以て実感している。

顔の表情筋が全く動かないんだけど。

鮮明に心臓の音が聞こえてくるんだけど。






一言で今の気持ちを表すなら

『なんか倒れそう』

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