あなたとの距離
第6章 見たい/見られたくない

また、長谷川さん。
何て大胆な。

理沙と明日香と3人で更衣室に着いた時、立花さんが奥の方にいるのが見えた。

出口付近で上着を脱いで、ブラウスのボタンを外していると、長谷川さんの甘ったるい声が聞こえてくる。

「奏、腹筋割れてるー。すごいねえ」

え、また?
着替え途中にも関わらず、思わず声の聞こえた方向に体が向いてしまう。

そこには、長谷川さんが、スポブラだけを身につけた上半身裸の立花さんの腹部に、手を這わせている姿が飛び込んできた。

初めて見る、立花さんの引き締まった身体に目が奪われる。

まさに、アスリートの身体で、惚れ惚れしてしまう。

って、それどころじゃない。
長谷川さんったら、なに立花さんに触ってるの!

「長谷川が羨ましい?」

隣から、既に着替え終わった理沙が耳打ちしてきた。

え?
私が立花さん見てた事、気づかれた?

取り繕う言葉を探してると、後ろに古谷さんを伴った立花さんが、正面に来て足を止め、驚いたように目を見開いて、マジマジと私を見てきた。

あ、私まだ着替え途中で、、、。
咄嗟に視線を下げると、ブラウスをはだけさせ、ブラを露わにしている自分の姿に気づいて、慌てて腕で隠す。

女の子同士なんだから、下着姿を見られるのなんて恥ずかしいはずないのに、何故か立花さんには、どうしようもなく恥ずかしく感じる。

あー、きっと私、今顔真っ赤だ。

立花さんと古谷さんが体育館に向かう気配がした。
慌てて着替えを再開させていると、

「やっぱりね」

横からボソッと呟く理沙の声が耳に入る。

「え?やっぱり、、、」

私が言い終わらないうちに、明日香から「早く行こうよ」とせっつかれて、「先行ってるね」、と理沙は明日香と一緒に行ってしまう。

てっきり冷やかされたのかと思ったんだけど、意外にも理沙の表情が硬かった事が気になった。

< 6 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop