あなたとの距離
第9章 バレてる⁉︎

席替えから1カ月。
進展、、、ゼロ。
むしろ、マイナスかもしれない。

夏本番になって、部活中心に世界が回るようになった。
朝練、放課後はもちろん、昼休みはミーティングがあるし、土日もほぼ埋まっている。

授業中以外で、教室の席に座っている時間がなくて、前後の席なのに挨拶するぐらいだ。
その挨拶すらも、後ろにいる未玖に声をかけられることで、まともに出来ない。

それでも夏服になって、肌の露出が多くなり、授業中でも不意にドキッとさせられる瞬間が増えた。
たまに髪を結った時に見えるうなじとか、透けて見えるブラだとか。

席が後ろだからこその特権だ。
触れられる距離にあって、触れられないのは拷問とも言えるけど。

、、、そんな事より、まともに話すら出来てないのが問題なのか。

はあっ。

「どうしたよ、奏。でっかいため息なんかついて。部でヘマやらかしたとか?」

そう横から声をかけてきたのはマキ。
今日は部のミーティングがなくて、久々に屋上で昼ごはんを一緒に食べていた。

「いや、部活は関係ない」

そう否定すると、マキはさも当然のように、
「じゃ、恋わずらいか」
と言ってのけた。

ゲホっ、ゲホっ。
食べかけのご飯を詰まらせて、むせてしまう。

「は?な、なんで?っていうか、そんな事あるわけないじゃん」
必死になって否定する。

マキは追い討ちをかけるように、
「え、佐原ちゃんでしょ。あそこまで明からさまで、気づかない方が無理」
そうばっさり言われ、完全に自分フリーズ。

「奏、佐原ちゃん見ただけで、キョドッて顔真っ赤にしてんじゃん。他の子にそんな事ないっしょ」

そんなに分かりやすかったのか。
え、じゃ、じゃあ
「、、、み、みんな気づいてる、かな」

「うーん、私は奏の事良く知ってるからね。他はどうかな。あ、でも佐原ちゃんはこれっぽっちも気づいてないから大丈夫」
励ますかのように背中をドンドン叩いてくる。

ホッと胸を撫で下ろすけど、チクっと痛みを感じた。
気づかれてなくて嬉しい。
恥ずかし過ぎるから。

でも。
心のどっかで、気づいて欲しいと思ってる自分がいた。

「で、奏はどうしたいの?」

「どうしたいって?」

「純情乙女よろしく見てるだけか、友達になりたいのか、踏み込んで恋人になりたいのかってこと」

コース選択みたいに言うな。

「と、友達かな」
恋人になりたいと頭の片隅で騒ぐ、もう1人の自分を無視する。

「ふーん。佐原ちゃんモテモテだからね。しかも押しに弱そうだし。あっという間に恋人出来ちゃうよ」

「他校の男子から告られてるって噂は、聞いた事ある」

「他校なんかじゃなくても、もっと近くにいるよ」

「え?でもうち女子校」

「自分だって女の子の佐原ちゃんに恋してるんでしょうが。奏みたいなのが、他にもいないって言い切れる?」

「それはそうだけど。、、、ちなみに誰?」

「そうかもって思ってるだけで、確証はないから。それより、せめて話出来るようにしな。今日は、久々にノー部活デーじゃん。帰り、誘ってみれば?」

「いきなり誘って引かれない?」

「うだうだしてると夏休みになって、新学期にはまた席替えだぞ」

う、確かに。
あの佐原恵那に声をかける場面を想像しただけで、試合の時でも味わった事のない緊張が走る。

両手で顔を叩いて気合を入れる。

「やってやる」

「おう、頑張れよー」
マキのニヤニヤした顔をど突いて、教室に戻った。




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