インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
「明日、11時に改札口な。寝過ごすなよ」

「尚史こそ夜更かしして寝過ごさないでよ」

「あー……じゃあ起こしてくれる?10時に電話して」

「わかった、10時ね」

普段の連絡はトークで済ませるのに、電話をしてくれと言うなんて珍しい。

トークの通知音では起きられない恐れがあるから、確実に起きるために電話をしてと言ったのかな。

「おやすみ」と言いながら軽く右手を上げて尚史は帰っていった。

尚史の後ろ姿を見送ったあと、私はまたさっきまで尚史と握り合っていた右手をじっと見る。

昨日よりもう少しどころか、ずいぶん長い間お互いの手を握り合っていたように思う。

どれくらいの間そうしていたのか、実際には10秒くらいだったのかも知れない。

尚史は『イヤだと思ったら言って』と言っていたけど、私はイヤだと思うどころか、尚史の手のあたたかさや大きさがなんとなく心地よくて、もう少しそうしていたいような気がした。

そう思った途端、またあの不思議な感覚が私の体の中にわき起こる。

むず痒さに加えて動悸までして、身体中が火照り始めた。

一体なんなんだ、これは?

慣れないシチュエーションで神経が昂っているのかも知れない。

早くお風呂に入って寝てしまおう。


< 102 / 732 >

この作品をシェア

pagetop