インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
バッグの中からスマホを取り出し、尚史の電話番号の下の通話ボタンを押して耳に当てた。

なかなか途切れない呼び出し音を数えているうちに、尚史のスマホがマナーモードになっていないかとか、ちゃんと起きてくれるだろうかと少し心配になる。

12回目を数えたときようやく呼び出し音が途切れ、やや間があってから、『もしもし』と眠そうな尚史の声が耳のすぐそばで聞こえた。

初めて聞いたわけでもないのに、寝起きの尚史はこんな声をしているんだなと改めて思う。

「おはよう、やっと起きた?」

『んー……起きた、おはよう……』

「また朝方までゲームしてたんでしょ」

『いや……ゲームは早めにやめて布団に入ったけど……なかなか寝付けなかった。モモに起こしてもらわなかったら多分寝過ごしてた、ありがとう』

電話で聞く尚史の声はいつもより近くて、少し低い。

まるで耳元で話し掛けられているようで、なんとなく照れくさい気がした。

普段は電話なんてしないから余計にそう感じるのだと思う。

『ところでモモ、今外にいる?なんか周りが騒がしいけど』

「ああ、うん。ちょっと用があってね、待ち合わせの時間までに済ませようと思って」

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