インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
恥ずかしいのと照れくさいのが一気に押し寄せて、耳の裏まで熱くなってきた。

「モモ、大丈夫?」

「今のところなんとか……」

おそらく真っ赤になっているであろう顔面を見られないようにうつむいて答えると、尚史は私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「無理しなくていいよ。無理だと思ったらすぐに離していいから。少しずつ慣れていこう」

「うん……わかった」

ターゲットを見失わないように、その少し後ろを尚史と腕を組んで歩き、同じ電車に乗った。

座席は空いていたけれど、ターゲットと同じように腕を組んだままでドアの近くに立つ。

そうしている間にも、触れている腕から尚史の体温が伝わってくる。

よく考えたら腕を組んで歩くなんて、『私たちは恋人同士です』と世間に公表しているようなものだ。

それによって仮想カップルの私たちが、周りからは恋人同士と認識されるということであって、恋人同士なら当たり前にしているあれやこれやを、私たちももちろんしているのだという暗黙の了解みたいなものがそこにはあるというわけで……。

思わず私と尚史が本当の恋人同士みたいにあれやこれやするところを想像しそうになったけれど、知識だけは漫画で得たものの実体験が伴わないので、モザイクのような白いモヤでかき消された。

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