インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
うつむいたままで思いきり大きく首を横に振ると、尚史は私からゆっくりと手を離した。

「大丈夫か?」

「……なんとか……」

私は気付いてしまった。

相手は幼馴染みの尚史だからと気を抜いていたけれど、じつはこの男、さりげなくイケメンキャラを発動させるスキルを持っているのでは?

それも本人は無自覚なのか突如イケメンが現れるわけで、キザなイケメンよりもずっとたちが悪い。

いつも通りのつもりで一緒にいたら、私は仲間のはずの尚史から大ダメージを食らってしまう。

私……今日は無事に生きて帰れるのかな……?

手すりを強く握りしめ、下を向いたままで乱れた呼吸を整えていると、尚史がためらいがちに私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「あのさ……昨日も言ったけど、イヤならイヤってハッキリ言ってくれていいから。無理して我慢されると俺もつらい」

申し訳なさそうな尚史の声を聞いて胸が痛んだ。

尚史は私のためを思って協力してくれているのに、余計な気を遣わせてしまったことが心苦しい。

私は尚史に触られることを気持ち悪いとかイヤだとは思っていないし、ただいつもの尚史とのギャップに驚いてしまっただけだと思う。

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