インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
【悲報】試食不可 ~棚から落ちてきたぼた餅を実際に食べるのは勇気がいる~
午後の仕事が始まってからは、ふとした瞬間に佐和ちゃんの言葉が頭をよぎり、さらに胃が痛んだ。

私はよほどひどい顔色をしていたのだろう。

3時の休憩時間になると、みっちゃんがそばにやって来て私の手に胃薬を握らせた。

「普通はデートの前ってもっとウキウキするもんだと思うけど……そんなんじゃこの先付き合うことにでもなったら大変よ?」

「うん……早く慣れないとね」

「慣れるにはそれだけ一緒にいないといけないから、そこに行き着くまでが地獄ね」

「地獄って……」

みっちゃんは大げさに身震いして見せて自分のデスクに戻る。

いくらなんでも地獄は言い過ぎだろう。

今はまだ八坂さんと二人きりになることを考えると不安と緊張で落ち着かないし胃も痛いけれど、きっと何度か会っているうちにすぐに慣れるはずだ。

尚史と仮想カップルを始めてすぐのときだって、いつもと違う距離感や触れ合うことに慣れていなくて緊張した。

だけど少しずつ慣れてきたら長い間手を繋いでいられるようになったし、抱きしめられても殴ったりはしなかった。

そして今では抱きしめられたままでもゲームができるほどになった。

うん、やっぱり慣れって大事だな。

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