インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
私が頭を抱えて考えていると、尚史はベンチから立ち上がり、大きく伸びをした。

たった今私の大事なファーストキスを奪ったくせに、尚史はなんてことない顔をしている。

私にとっては人生の一大事と言えるくらいのことでも、それなりの経験がある尚史にとっては、たかが『キスくらいで』と言えるくらいに些細なことなんだろう。

「じゃあ……そろそろ帰ろうか」

「ああ……うん……」

公園からの帰り道で、尚史は私と手を繋がなかった。

尚史と手を繋ぐことにすっかり慣れてしまった私の右手が、一歩歩くごとに手持ち無沙汰に空を切り、二人とも黙り込んだままで私の家が少しずつ近付いてくる。

私の家の前にたどり着いたとき、尚史は私の腕を引き寄せ、私を強く抱きしめた。

尚史の胸に押し付けられた私の頬に尚史の体温が伝わって私の体温と混ざり合い、耳に響く尚史の鼓動が私の鼓動と重なって、胸の奥が深くえぐられるような、ジンとしびれるような妙な感覚を覚えた。

なんだこれ……?

今までに感じたことのない不思議なうずきが私の体とも心ともつかない奥の方から込み上げ、すごい速さで身体中を駆け巡る。

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