インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
いい人そうに見えた八坂さんが豹変して獣のような顔で迫ってきたことを改めて思い出すと、また身震いがする。

私の話を少し顔をしかめて聞いていた尚史が、ひとつため息をついて私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「そうか。じゃあ、この人ならって思える相手が現れるまでは大事に取っとけ」

「大事にしすぎてそのまま腐って死んじゃうかもね」

「もしそうなりそうなときは腐る前に俺が残さず食ってやる」

「……食われないよ、バカ」

仮想カップルをやる前は絶対に考えられなかった冗談だ。

バカみたいなことを言っているけど、尚史なりに私を元気付けてくれているんだと思う。

一緒にいて尚史以上に安心できる人が現れなければ、私には恋愛も結婚もできそうにないなと思うと苦笑いがもれた。

私の家の前に着くと、尚史は私に向かって両手を広げた。

「モモ」

「……ん?何これ?」

「いいから来い」

尚史は長い腕で私を抱き寄せて、いつもより優しく頭を撫でる。

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