インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
不意打ちで抱きしめられて鼓動が急激に速くなり、尚史の広い胸に押し付けられた頬が熱くなって、胸の奥がしめつけられるような痛みを感じた。

……なんだこれ?

ここ最近ドキドキビクビクすることが多すぎて、心臓が疲れてるのかな?

私は尚史に触れられると恥ずかしくて照れくさくて数えきれないくらいドキドキしたけど、尚史はいつも平気な顔をしているから、いまさら私とくっついてもなんとも思わないってことなんだろう。

「一人で眠れそうか?」

「うーん……眠ろうとしたら思い出して眠れなくなりそうだから、好きな漫画読みながらそのまま寝ちゃおうと思う」

「そうか。どうしても眠れなかったら遠慮しないで電話しろよ」

「うん……ありがとう」

いつものように軽く右手を上げて帰っていく尚史の後ろ姿を見送りながら、まだ高鳴りがおさまらない胸をそっと押さえた。

尚史の前でも私はやっぱりまな板の上の鯉だ。

無理やり押さえ付けられて逃げられないわけでもないのに、尚史のあたたかさと優しさに捕らわれて、抗うことができない。



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