インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
あのそっけない言葉と態度は、尚史なりに私のためを思ってのことだったのか。

結局は全部私の勘違いで、勝手な取り越し苦労をしていたんだとわかるとホッとして、苦笑いがもれた。

「だからモモの気が変わらないうちにと思って、昨日役所に行って婚姻届を出した」

「えっ?!ちょっと待って……婚姻届を出したってことは、私たちもう夫婦になったってこと?」

「そういうことだ」

私が胃痛で寝込んでるうちに勝手に婚姻届を提出しただって?!

どうしてそんな大事なことを今まで黙っているんだ!

私はそんなことも知らずに、胃に穴を空ける勢いでバカみたいに悩んでいたのかと思うと、体から一気に力が抜けて、空気の抜けた風船みたいにヘナヘナと縮みそうになる。

「せめて婚姻届提出する前に、一言くらい断り入れてよ……」

「あー……そこはごめん。でもモモの体調が良くなるの待って『気が変わったからやっぱり結婚やめる』って言われるの怖かったし、絶対にこのチャンスを逃すわけにはいかなかったから」

尚史よ、いつもの無気力はどこに行った?

まさか最初からそのつもりだったのか?

だったら、私が今日『結婚しない』といくら言っても無駄だったわけだな、すでに入籍済みなんだから。

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