インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
「キヨ、あんまり余計なこと言うなよ」

尚史はグラスを差し出して、ビールのおかわりを要求しながら小声でそう言った。

余計なことってもしかして、尚史の過去の恋愛についての話?

キヨは尚史の恋愛遍歴なんかももちろん知っているんだろう。

少し前までなら聞いてもなんとも思わなかっただろうけど、尚史の妻となった今は、聞きたいような聞きたくないような、複雑な気持ちだ。

「余計なこと言うつもりはないけどな。モモっちを好きすぎるのが顔に出てバレないように無表情だったとか、モモっちが合コンで知り合った男にかっさらわれそうになってめちゃくちゃ焦ってたとか、すぐにでも結婚したいって言ってるのに、なんで俺は対象外なんだってへこんでヤケ酒してたとか」

「言ってんじゃねーか!」

私には見せなかったカッコ悪い姿を暴露された尚史は、立ち上がってカウンターの向こうのキヨに枝豆の殻を投げ付けた。

好きなのがバレないように無表情だったって……それであの無気力で何事にも無関心な尚史が出来上がったということ?

仮想カップルを始めたら激甘に豹変したと思っていたけれど、むしろ今の方が素の尚史なのだろう。

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