インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
どうして尚史を責めるようなことを言ってしまったんだろうと後悔した。

だけど言ってしまったことは取り消せない。

『覆水盆に帰らず』だ。

それは尚史の過去も同じことで、いくら取り繕っても、どれだけ上手に笑っても、消せるものではない。

それがわかっているから、尚史はこんなにも落ち込んでいるんだと思う。

「イヤな思いさせてごめん。水野が言ったのは全部ホントのことだ。でも……俺が好きなのは昔も今もモモだけなんだ。モモがいればそれだけでいい。だから……俺のことキライにならないで……」

尚史は震えた声でそう言って、私を強く抱きしめた。

いつもは大きく見える尚史の背中が、とても小さく感じた。

どんな事情があって水野さんと関係を持ったのかは知らないけれど、尚史の言葉に嘘はないと思う。

「……大丈夫だよ、キライになんてならないから」

「ホントに?」

「うん。ついこの間まではただの仲のいい幼馴染みだったのも、私がずっと尚史の気持ちに気付けなかったのも本当のことだもんね。私と結婚するまでに尚史が誰と何してたって私には関係ないし、気にしてもどうしようもないことだから、尚史ももう気にしないで」

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