インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
「ホント懲りない人だね……」

「まぁ、妊娠はその子の勘違いで実際はできてなかったらしいんだけど……八坂さんは女癖の悪さが会社のみんなにも知られて、退職するまでかなり肩身の狭い思いしてたことだけはたしかだし、俺もそれ聞いたら昔のこと思い出して、ヘタしたら今頃……って考えると怖くなった」

昔のことと言うのは、おそらく水野さんとのことだろう。

尚史自身が望んでいなかったこととは言え、尚史が私以外の人の肌に何度も触れていたのだと思うと、やっぱり胸がモヤッとする。

できれば二度と聞きたくなかった。

「……別にそこまで言わなくてもいいんだけど」

ちょうどそこで駅に着いて、私が仏頂面でバッグのポケットから通勤定期を取り出すと、尚史は慌てた顔をして私の肩をつかんだ。

「モモ、ごめん……俺、つい余計なことまで……」

「もういいよ、済んだことだし」

『もういいよ』と言いながらも、明らかに不機嫌な顔をしていることは自分でもわかっていた。

尚史は最初に水野さんと関係を持ったとき、酔っていた上に寝ぼけて夢だと思っていたと言っていたし、避妊なんか考えもしないで事に及んだのだろう。

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