インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
私はそんなことを考えながら黙ったまま歩き、いつも電車に乗る場所を通り過ぎてホームの一番端まで来ると、振り返って尚史のネクタイを思いきり引っ張った。

「過ぎたことはしかたないけど、私と結婚した以上はこのさき一生、浮気なんかしたら絶対許さないからね」

尚史は少し驚いた顔をしていたけれど、私の目を見て大きくうなずいた。

「浮気は絶対しない。俺はモモがいればそれだけでいい」

「その言葉、ちゃんと覚えといてよ。尚史に触っていいのも、尚史が触っていいのも、将来尚史の子を産むのも私だけなんだからね。ちゃんとわかってる?」

また可愛くない言い方をしてしまったけれど、私は尚史を愛しているから、絶対に他の誰にも渡さない。

これが私の言いたいことのすべてだ。

「もちろん。モモ、愛してる」

その言葉を聞き終わると同時に、構内アナウンスがホームに電車が入ってくることを告げた。

電車を待つ人たちは、視線も意識もホームに入ってくる電車の方を向いている。

尚史は鞄で顔の辺りを隠して素早く私に口付けた。

「続きは帰ってから、モモが許してくれるまで言うから許してくれる?」

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