インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
私は返事をする代わりに、ネクタイをさらに強く引っ張って、尚史の唇に噛みついた。

「言葉だけじゃ許さない。私じゃなきゃダメだって、ちゃんと証明して」

「わかった、一生掛けて証明する」

「よし。じゃあとりあえず……」

話もついたし電車に乗ろうと振り返ると、駅員さんが発車の合図の笛を鳴らし、私たちの乗るはずだった電車のドアがゆっくりと閉まった。

私たちはポカンと口を開いて、たくさんの乗客を乗せて目の前を通り過ぎて行く電車を見送る。

「あ……あれ?」

「行っちまったな」

なんということだ。

朝っぱらから『二人だけの世界』よろしく、漫画みたいなやり取りをして電車に乗り損ねてしまった。

冷静になって考えてみたら、とてつもなく恥ずかしい。

朝の通勤時間帯のホームでヤキモチ焼いてキスとか、何やっとんじゃ私は……?

自分の間抜けさに落ち込み頭を抱えていると、尚史は慰めているつもりなのか、ポンポンと私の肩を叩いた。

「モモ、次の電車でもじゅうぶん間に合うから大丈夫だ。俺はそれよりまだ遅い電車に乗ってたけど、遅刻したことない」

「尚史……これからは朝にややこしい話とかケンカをするのはやめよう……」

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