インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
「どうせ同じ場所に行くんだから、最初から『迎えに来て』って言えば良かったのに。親に遠慮なんかしなくていいんだぞ?結婚しても少しくらいは頼ってくれんと寂しいからな」

「うん……ありがとう」

私の記憶の中では、父はいつも穏やかに笑っている。

私が小さかった頃より見た目は老けたとは思うけれど、今も父の優しさは変わらない。

母はそんな父の顔を見ながら、助手席で少し呆れたように笑っている。

「ホントにお父さんは昔からモモに甘いのよねぇ。モモはお嫁に行って少しずつでも親離れしようとしてるんだし、そろそろお父さんも子離れしたら?その分私を甘やかしてくれてもいいのよ?」

母の冗談混じりの言葉に尚史がこらえきれず吹き出した。

「それはすごくいいかも……」

「でしょ?モモのことは尚史くんに任せて、残りの人生は私を目一杯甘やかしてちょうだいよ、お父さん」

母が私の前でそんなことを言うなんて驚きだ。

父は少し照れくさそうに笑っている。

「それもそうだなぁ……。久しぶりに夫婦水入らずで旅行でもするか」

「いいわね!」

いつもの『母親』の顔とは違って、まるで新婚夫婦の奥さんのように嬉しそうに笑う母が、やけに可愛らしく見える。

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