罪あることの荒唐
「おーい。おっさん。遅いぞ」
「おまえな。名前、おしえた、だろうが」
男は呆れて、登ってきた緩やかな坂道を振り返る。いくらなだらかだとはいえ、こうも長い坂道には体力が追いつかない。
若いっていいなあと腹を空かせている男は、はしゃぐ子どもに目を据わらせた。
十歳を過ぎた頃だろうか、マロンブロンドの短髪はボサボサで、黒い瞳に少し藍色が混じったような瞳は快活さを物語っている。
「おっさん。罪人(とがびと)のくせに、食べ物の調達も出来ねえのかよ」
「うるせえ、クソガキ」
男の子に見えても、こいつは女の子で、王女だ。殴りたい気持ちを抑えよう。それが大人ってもんだ。
「ガキの頃に親が死んですぐ、首領に育ててもらってたんだよ」
親が罪人(とがびと)だからと焼き付けられた胸の烙印は今でも時折、痛みが走る。でも、本当に俺の両親は罪人だったのか。それは解らない。
食料は商人を襲えば手に入る。首領は仲間を沢山、集めていたからそのなかにはコックもいた。
だから、俺は料理をする事はなかった。
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