罪あることの荒唐
「なんて言ったっけ」

「なにが?」

 記憶を辿るユタに、ツムはいぶかしげに顔を上げた。

「ああ、そうだ──」

 口にしようとした刹那、

「いたぞ!」

 男の声と激しい馬の足音に振り向けば、土煙をあげて馬に乗ったいくつもの影がこちらに迫ってきていた。

「騎士団!? もう来やがった!」

「おっさん! 逃げろ!」

 罪人には容赦なく剣を立てる騎士たちが、未だユタが生きていると知って追いかけてきた。

 たった一人に大勢で殺しにくるとは、暇人なのかと呆れてしまう。

 解っている。これは罪人を決して許さないという意思表示と、見せしめなのだ。

 罪人を知らずに助けただけでツムがいた村は焼かれ、賢者だった老人は殺された。徹底的にやることで、誰も罪人に手を貸そうとは思わなくなる。

 かつて、王族を根絶やしにするために集まった者たちから「罪人(とがびと)」という反逆刑が生まれ、それは未だに続いている。
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