身代わり令嬢に終わらない口づけを
 常に見張られている生活は息がつまる。いっそのこと床掃除でもさせてもらった方が気が楽だったが、そういうわけにもいかない。それでローズは、ここにあった楽器を思い出したのだ。

『ねえソフィー、今夜、サロンの楽器をお借りしてもいいかしら』

 二人だけになった時に、こっそりとローズは聞いてみた。

『今夜ですか。でも、お倒れになったばかりですのに、あまりお疲れの出るようなことは……』

 やはりソフィーはいい顔をしなかった。

『もう私は元気だし、少しだけだから』

 しばらく考えていたソフィーは、やがてうなずいた。

『わかりました。けれど、私も一緒にまいります』
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