身代わり令嬢に終わらない口づけを
『わたくしは一人でも大丈夫です』

『そういうわけにはいきません。奥様が一人でいる時にお倒れにでもなったら、大変な事ですから』

 真面目に言う姿に、ローズは以前の自分の姿が被って見えた。

(気持ちはすごくわかるしありがたいけれど……なるほど、お嬢様からはこういう風にみえていたのね)

 ソフィーの気持ちも痛いほどによくわかるローズは、結局二人でサロンへと向かったのだ。

 掛けてあった布を外してハープを抱え込むと、ぽろん、と弦をつま弾く。体を動かすわけではないが、楽器をならすことはローズのストレス発散に役立った。

「お屋敷で練習している時は、ばれないようにと必死だったのにね」

 誰にともなくつぶやいて、ローズは曲を奏でた。ソフィーは目立たないようにサロンの隅にひっそりとたたずんでくれている。
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