身代わり令嬢に終わらない口づけを
エピローグ
「汝ハロルド・カーライルは、この者を妻とし、生涯彼女のために貞節を守りお互いに癒しを与え合い……」

 神父の朗々とした言葉を神妙な面持ちで聞いているのは、ハロルド・カーライル卿。この結婚をもって、父の跡を継ぎカーライル公爵となる。二十六歳の、若き青年貴族だ。甘い顔立ちと、無駄な肉のついていないすらりとしたその体躯は、凛とした清々しさを持つ。

 ただし、その左頬だけがなぜか赤くなっていることを、参列者は口にはしないが不思議な目で見ていた。


「誓います」

「よろしい。では、ベアトリス・リンドグレーン。汝はこの者を夫とし……」

 光を受けて真っ白に輝くドレスは、ふわりと軽く彼女の体を包んでいた。ベールで隠した顔をわずかにうつむけ、楚々としてハロルドの隣に立っている。

「誓います」

「よろしい。では、この婚姻に異議を申し立てる者は、今すぐに述べよ。言葉無き場合は、沈黙をもって承認とする」

 白い衣装に身を包んだ二人が、視線を合わせて微笑む。
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