身代わり令嬢に終わらない口づけを
 教会の一番後ろに立って、ローズは感無量でその姿を見つめていた。その目からは、はらはらと涙が零れ落ちている。

(お嬢様、お綺麗ですよ)


「あまり泣きすぎると、化粧が落ちるぞ。お前の素顔を誰かれなく勝手に見せるな」

 そ、と低い声が降ってきて、ローズは潤んだままの目で隣を見上げた。そこには、正装をしたレオンが立っている。


 館に戻ってきたあと密かにベアトリスと入れ替わり、昨日館に到着した伯爵夫妻たちに交じって、ローズも本来の侍女という立場に戻った。今日は薄く化粧を施しているが、それはベアトリスに似せるためではない。


「人に見せるほどの顔でなくてすみません。どうせ私の顔なんて、誰も気にしてなんかいませんよ」

 感激の涙をふきながら、ぷ、と頬を膨らませると、レオンは微かに笑った。

「美しいと言ったではないか」

「見間違ったのでしょう」

「あの時」

 レオンが何かを思い出すように目を細める。
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