身代わり令嬢に終わらない口づけを
『口説き落とすのに苦労したよ』

 とハロルドが言えば、

『口八丁手八丁で騙されたのよ』

 とベアトリスが言い返す。

 行方知れずだった時の話をする間二人は、終始見つめあってはうふふと笑ってあははとつつきあう。えんえんと続く言い訳という名目ののろけを、ローズとレオンは無心になることでなんとか乗り切った。


 ハロルドの当初の予定では、ベアトリスが公爵家に来る頃には自分も家に戻っていて、そこで彼女を驚かすつもりだった。

 だが帰ろうとしたまさにその日に、当のベアトリスが『結婚なんてしたくない』と言って家を出てきてしまった。予想外の行動をとったベアトリスをたしなめるでもなく、悪ノリしたハロルドはベアトリスにすべてを黙ったまま、彼女をこのフィランセの街に連れてきたのだ。

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