身代わり令嬢に終わらない口づけを
 半泣きになったローズの目を覗き込んで、存外優しい表情でクリステルは言った。

『トリスのことだから、ちょっとからかっているだけよ。きっとすぐに戻ってくるわ』

『本当にそう思います?』

 すがるように聞いたローズの問いかけを、クリステルは笑顔で無視した。

『まあ、なんとかなるわよ。がんばってね』

 根拠のない励ましを受けて、あれよあれよという間にローズは無理やり迎えの馬車に乗せられてしまった。


 ぼんやりとそんなことを思い出していたローズに、レオンが声をかける。

「侍女の一人もいないのでは何かと不便だろう。伯爵家のその侍女が来るまでの間、うちのメイドを何人かつけよう」

 そう言ってレオンは、持っていたバラの花束をローズの手にどさりと渡した。重くはあるが、すべての枝から棘がとってあるので持っていても痛くはない。
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