ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
『かしこまりました。すでに店のスタッフはすべて帰しました。念のため本日は貸し切り、ということにしてございます』
「さすがマリーだね。じゃあ、彼女を連れて行ったらシンデレラプラン、よろしく頼むよ」
シンデレラプラン――金を使った全身コーディネートは、目当ての女性を口説くときによく使う手だ。それなりに着飾ってはくるだろうけど、プリンセスになるのが嫌いな女性はいないはずだから。
『ライアン様でしたら、そのようなことをしなくても女性の一人や二人、口説き落とすことなど造作もないでしょうに』
「あはは、ありがとう。ラクにいけばいいけどね。じゃあまた後で」
『はい、お待ちしております』
電話を切って、僕はさて、と手元のタブレット端末に目を落とした。
液晶画面には、ホテル内部に取り付けられた監視カメラの映像が次々と映し出されている。
エントランス、ロビー、フロント……
日本人と外国人の比率は、五分五分……いや、外国人の方が多いか。
一体この中の誰が、マユミなんだろう?
宿泊名簿の中に名前はなかったけど、マユミなんて、どうせ仮名だろう。
大手広告代理店勤務のOLというプロフィールも年齢も、本当かどうかはわからない。
写真も後ろ姿のものだけだった。
すべてがベールに包まれた人……。
女性に不自由はしていないけど、最近は本業に打ち込んでいて、決まった恋人はいなかったから。
実は割と、彼女に興味を持ってる自分がいた。
各国のそうそうたるゲストを手玉にとった希代の魔女は……一体どんな顔をしてるんだろう?
仕事中のビジネスマンを装って、刻々と移り変わる画像に目を落としていた。
すると――エレベーターから降りた一人の女性に、目が吸い寄せられた。