ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
半年前、私がさらわれた時。
助けてくれた彼が見せた、あの冷たい眼差しを覚えてる。
きっとあれは、幼いころの名残なんだろう。
そこにはおそらく、私なんかが想像もつかないほど暗くて孤独な日々があったに違いなくて……。
そして、その彼を受け入れ、支え、家庭のぬくもりを教え……こんなにも明るく笑える魅力的な青年へと変えたのは、お義父さんとお義母さんと弟さん……彼の家族だ。
出会ってまだ1年にも満たない私なんか、入り込めない絆が、そこにはあって。
――血はつながってないし、髪の色も瞳の色も違うけど……僕の両親は彼らだけだよ。誇りに思ってる。
はっきり思い出せる、そう言った時の彼の顔。
どこまでも優しく、穏やかな……安らいだ顔。
ライアンの今があるのは、彼らのおかげなんだ。
その彼が、お義父さんが置かれている状況を知ったら……
きっと、どんなことをしても助けたいと思うはず。
それに……それだけじゃない。
――彼には、ビジネスの才能があります。日本人のあなたにこんなことを言うのは申し訳ないが、日本は彼には小さすぎる。そうは思われませんか?
そうかも、しれない。
ライアンが近頃、経営の方に関心を持ってるのは、知ってた。
熱心に勉強してたことも。
『僕の中にこんな……野望って名前をつけたいような欲があったなんて、知らなかったよ』
そう、彼はきっともう気づいてる。
もっと上を目指したがっている自分に。