ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
――総帥は、ライアン様の過去をすべてご存知です。それでもなお、彼の将来性に賭けようとしてくださっている。彼にそれだけの価値があるからです。
純利益、総資産額、従業員数、子会社数、海外拠点数……
すべてにおいて世界のトップレベルを維持し、経済を牽引し続ける巨大組織、その頂点。
その人が、ライアンの才能を認めてくれている。
――彼はもっと大きな舞台で、羽ばたくべき人だ。リーズグループなら、彼の出生の秘密を守りつつ、かつ最高の居場所を用意することができるのです。
ビジネス誌で読んだことがある。
フレデリック・リーという人は、それまでのグループトップたちとは違う先進的な考え方を持っていて。旧態然としていた内部方針を全面転換、外部の人材を柔軟に登用し、アイディアを吸い上げ、収益を押し上げたカリスマだと。
彼のもとでなら、ライアンはもっともっと高く飛んでいける。
きっと。
そのために、私ができることって……
ポタっと涙が落ちてしまい。
慌てて写真の上、ガラスの上の涙を拭きとった。
でもそれは、ポタポタと、ぬぐうそばから濡れてしまう。
「っ……ひ、……っ」
上手くいきすぎてた。
御曹司で、王子様みたいなルックスと有り余る才能があって。
そんな人が、普通のOLで年上の私なんかを愛してくれて。
プロポーズもしてくれて。
しかも、お義父さんたちまで祝福してくれて。
「はは……っ……く」
人生、そんなスムーズにいくわけないか。
笑おうとするのに、できなくて。
何度も何度もしゃくりあげながら、子どもみたいに背中を丸めて。
私はずるずると、その場にうずくまった。