ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
カチャっ
小さな音が聞こえて、薄く目を開けた。
ライアン……帰ってきたの?
いつの間にか、あのまま床の上で眠っちゃったらしい。
どんな顔をしたらいいかわからなくて、とっさに目を閉じた。
「飛鳥? ……寝てるの……?」
密やかな足音が、気遣うようにゆっくり近づいてくる。
「tear……?」
涙の跡をぬぐわれて、ピクッと動いてしまったけど……狸寝入りだって気づかれた……?
ふわっと、身体が宙に浮く。
抱き上げられたんだ。
私を起こさないようにだろう。
そっと、ガラス細工を扱うみたいな注意深さで歩いてくれる。
ふわりふわり。
漂うような心地いい感覚に、うっとりしていると。
身体が、柔らかいベッドへと沈んだ。
「ごめん……ごめんね、飛鳥」
いつもの彼とは真逆の、気弱な口調。
そのまま何度も、何度も。
頭を優しく撫でてくれる。
躊躇いがちな、でも愛情のこもったその動きに。
胸がきゅんと切なく、引き絞られる。