ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
6. 選考会①~飛鳥side

「じゃあ、リリィの春フェス、御社も出展されるんですね?」

タクシーの助手席から、体をねじるようにして後方を覗く。
「えぇ」と笑顔で答えてくれたのは、オオタフーズの樋口さんだ。

「うちはそういうの、上が結構好きなんで、毎回参加してますね」

よし、新情報!
頭の中のメモに、急いで書き込んでおく。

リリィというのは、20代後半から30代前半のママさんを主要読者とする情報誌。年に数回読者を招待して開くイベントは、いつも大きな話題になるんだけど……

イベントものが好きな企業なら、他にも提案できそうだな。
何かなかったっけ? 会社に戻ったら、チェックしてみなくちゃ。
と考えつつ、言葉を続ける。
「弊社も運営側のお手伝いをしてるので、私も顔を出す予定なんです。大河原部長も行かれるんですか?」

樋口さんの隣で、居心地悪そうにもぞもぞと動いた大河原さんが「いや」とかぶりを振った。
「開発は裏方だから。そういうのは広報へ譲ってる」
「譲ってるって、単に行きたくないだけじゃないですか」
ジト目で睨む樋口さん。

「付き合ってみてもいいと思うけどなぁ。美人だし」
「自分に女ができたからって、人にまで押し付けるな。迷惑だ」

「はいはい」と流すように相槌を打ってから、樋口さんがずいっと前のめりに顔を寄せてきたから、私は合わせるように耳を差し出した。

「以前同じようなイベント行ってね、この人、取引先の担当女史に、ロックオンされちゃったんですよ」

「ろろ、ロックオン?」

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