ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
張さんから話を聞いた日の翌朝。
目を覚ますなり、ライアンからものすごい勢いで謝られた。
――ごめん、ほんっとにごめん! 一昨日は、ちょっと嫌なことがあって……嫌なこと思い出して、普通じゃなかったんだ。でももう絶対、飛鳥が嫌がることはしないから! 約束するっ!
あまりに悲壮感たっぷりに頭を下げられて、まだ全然別れる決心なんてできてなかった私は半ば流されるように、「もう怒ってないから」って、仲直りを承知してしまい……
それから1週間。
仕事帰りに待ち合わせて、買い物行ったり、映画を観たり。
一緒に料理を作って、美味しいねって食べたり。
以前と変わらない生活を送ってる……けど、それは表面上だけ。
なかなか気持ちを固められず、どうしたらいいのかわからない私は、なんとなくぎこちなくなっちゃうし。
ライアンはライアンで、私の態度を違う意味にとってるらしく、キスすらしなくなってしまった。
私がその気になるまではって、我慢する気みたい。
夜は、壊れ物みたいにそっと、私を抱きしめて眠るだけ。
私の反応を確かめながら、詫びるように遠慮がちに回された彼の腕。
その温かさに、優しさに、涙が出そうになる。
違うの。
あの夜のことを怒ってるんじゃなくて……
これ以上彼に触れない方がいいと思えば思うほど、触れたい気持ちも大きくなって。
彼を感じたくてたまらなくて。
いっそのこと彼の理性が崩壊して、あの夜みたいにめちゃくちゃにしてくれたらいいのに、なんて考えてしまうほど、私もそろそろ限界で……
覚悟もできない答えも出せない膠着状態のまま、ずるずると時間だけが過ぎていく。
悶々とした気持ちを抱えて眠るたび、心の中の何かが崩れていくようだった。