ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

カラフルで華やかな装いが多いフロアで、グレー一色のパンツスーツに身を包んだその女性は、完全に浮いていた。
年齢は、僕より少し下……20代半ばくらいか?
いや、アジア人の女性は若く見えるからな、案外年上だったりして。
まぁ年齢なんて大きな問題じゃないけれど。

理由もなくぼんやり見惚れているうち、画面が自動的に別の場所へ切り替わり、僕は慌ててエレベーターホールの画像を呼び戻した。

彼女のほっそりした姿が再び映ると、ふぅと安堵の息が漏れる。

そしてふと、そんな自分に疑問を抱いた。
どうして彼女に、画面を戻したのか。
そんな自分の行動がわからなかったから。

機能性を優先したらしいスーツは、その身体をほとんど覆いつくして、色気なんて欠片もない。
薄くメイクしただけの顔は、緊張に強張って青白く。
きょろきょろと動く、くっきりとした二重の瞳は目尻が切れ上がり、少しきつめの印象で。

つまり、僕の好みからは大きく外れてる。
当然、今回のターゲット・マユミであるはずがないし。

だから放っておけばいい。
それなのに……なぜか目が離せなかった。

なぜだろう? 何が、気になるんだろう。

細いウエストから、引き締まったヒップへのラインだろうか。
なるほど、あの腰は引き寄せてみたいかもしれない。

あのスーツを脱がせたら……その下にある体を想像すると。
確かに興味深いかもしれない。

きっちりと一つにまとめたダークブラウンの髪も、乱してみたい……かもしれない。

でも……それだけだろうか。
スタイルのいい女性なんて、ロビーにいくらでも歩いてるのに?

自分でも自分の行動がわからないまま、僕は彼女へと、さらに画像をフォーカスさせた。
< 11 / 343 >

この作品をシェア

pagetop