ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
今日はここで、オオタフーズの「ソルティハーブ」を使ったレシピコンテストの最終選考会が行われる。
用事をお願いしているラムちゃんは、後から合流する予定だけど。(「絶対間に合います! 料理残しといてください」ってすごまれた)
いざ始まってしまえば、あとはそれぞれの専門スタッフが仕事を進めてくれるから、代理店の営業マンなんて当日は黒子に徹して見守るだけなのよね。
私一人でも、特に問題はない。
今日もすでに事前準備は万全だし、スタッフはベテランばかり。
カメラマンが雅樹、っていうのは、ちょっと予想外だったけど……彼の実力は、私が誰より知ってる。
彼に任せておけば、どんな撮影だって失敗はないから大丈夫。
だから何も心配事はないはず、なのに。
なんとなく落ち着かない。きっとそれは……
――今日は仕事でも飛鳥に会えるね。
審査員の一人であるベルナード氏を案内してくるのが、ライアンだからだと思う。仕事の場で顔を合わせるのは初めてな上、こんなぎくしゃくした状態だし……
とはいえ。
クライアントの前で、動揺を見せるわけにはいかない。
私だってプロなんだ。
今は仕事だけに集中しよう、と大きく息を吸い込んだ。
「へぇ、こんな住宅街の中に撮影スタジオなんかあるんですねぇ」
樋口さんも大河原さんも、ここは初めてみたい。
物珍しそうに、錆がボロボロ浮いた昭和な香り漂う倉庫を眺めてる。
中を見たらもっと驚くだろうな、と予想しつつ。
「どうぞ」と簡素なドアを開け、2人を中へ案内した。