ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「まぁそれは冗談としても」と笑いを収めた大河原さんは、ライアンの方へ体を向けた。
「リー専務、本気でうちにいらっしゃる気はありませんか? ヨーロッパ支社の方で人材を探してましてね。あなたなら適任だ」
ひゅうっと口笛の音――サムさんだ。
「モテモテだなぁ、わが友は。この前も確か、ヘッドハンティングの話来てただろう? アメリカの会社だったっけ?」
え……そうなの?
思わず顔をあげ。
「今の会社が気に入ってるので」と、淡々と口にする彼を見つめてしまった。
私そんな話、聞いてない……
「そうか、他からもそういう話が……。まぁ実力からすれば当然、という気もするが。じゃあ相当条件をよくしないとダメだな……」
大河原さんは、冗談とも本気ともつかない口調でまだブツブツつぶやいていたけど。
「やめてくださいよ、大河原部長。リーはうちの大事な幹部ですからね。変な勧誘はお断りします」
笑いながら言った田所さんが新しい料理を運んできたおかげで、話題がそのレシピへと移って。
私はそっと、席を立った。
「すみません。予備のお皿とかボウルとかって、どこに置いてあるかわかります?」
タイミングよく、アシスタントさんに尋ねられたのを幸い、
「倉庫の場所わかるので、私が取ってきます」
と言いおいて、スタジオを抜け出した。