ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

ハッと振り返ると、ズボンのポケットに手を突っ込んだ雅樹が立っていた。

「ちょ、……ダメでしょ、カメラマンが抜けちゃ」
「いや、ちょうど今、料理待ちでヒマだから、手伝うよ。何持って来いって?」
「えっと……お皿と、ボウル」
「皿はこっちだな、ボウルはあっち」
すぐさま棚を指されて、あっけにとられる。

「すごいわね、どこに何があるか全部知ってるの?」
「何度も来てるからな。そりゃ覚えるさ。飛鳥は……このスタジオ、避けてただろ」
「そりゃまぁ、ね」

原因となった出来事を思い出し、さすがに気まずくなって視線を外すと。
あははっ、と明るい笑い声が響いた。
「しかもここ、だしな。俺の浮気現場」

「笑い事じゃないわよ、ショックだったんだから」

そうだ。
この倉庫で、雅樹のキスシーンを見てしまった時のことは忘れられない。
しかも相手はこのスタジオでバイトしてた大学生で、私も顔見知りだったから、余計びっくりしたし、傷ついた。

「悪かったと思ってるよ。お前のことは、俺なりに真剣だったし。まさか自分が――」
「やめて。そんなセリフ、今更聞きたくない」

ムッとしながらボウルを求めて足を進めると、後ろから雅樹がついてくる。

「あの後さ、編集者だのライターだの、あちこちから散々責められたよ。なんで別れたりしたんだってさ。飛鳥は人気者だから」

「ミユキちゃんのこと、みんなに言ってないの?」
あれ、そういえば……ミユキちゃん、さっき事務所にいなかったような……?
もう辞めちゃったのかな。
チラッと考えて、あぁそっか、と一人頷いた。

さすがにもう大学卒業して就職してるわよね。
カメラマン志望だって言ってたし、雅樹のアシスタントになるんじゃないかって思ってたけど……
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