ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

エレベーターから降り、圧倒されたように立ち尽くしていた彼女に……都築が近づき何事かを話してる。

目指す場所を、聞いたんだろう。
彼女が……ラウンジへ、こちらへ、やってくる。

わずかに、鼓動が速くなった。
誰かと、待ち合わせなんだろうか。

ボーイの貴志に案内された彼女は、今僕の背後――中央の椅子へ座った。

途端。
彼女の背中が、ぐらりと後ろへ倒れかける。

思った以上に椅子のサイズが大きく、ひっくり返りそうになったらしい。
クールを装った表情が崩れ、子どもっぽく慌てふためく様子が可愛くて。
必死に笑いをかみ殺した。

タブレットごしなんかじゃなく、直に見てみたい。
そんな衝動と戦っていると。

ようやく落ち着く腰の位置を見つけたらしい彼女は、まるで決闘にでも出向くような尖った眼差しを真っすぐ前へ向けた。
重要な契約でも控えてるんだろうか。こんな、金曜の夕方に?
あるいは、恋人と別れ話でもしようってことなのか……

勝手に妄想を膨らませ、彼女を見つめ続けた。


『現れないな』

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