ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「ラ……篠木さん、ごめんね。営業用のものも一緒だったから、重かっただろ?」
「あ、ハルく、樋口さん、ありがとうございますぅ♪」

キッチンの中へ箱を運び込む樋口とラムへ、飛鳥と田所が近づいていく。

「ラムちゃん、お疲れ様。割と早かったわね」
「飛鳥さん、そりゃ急ぎましたもんっ」

「惜しいなぁ、一歩遅かった」
「えぇっ田所さん何それ、じゃあもう全部食べちゃったんですか!?」

「ラララムちゃんっ! だから、私たちは黒子だって……」
「わかってますけどぉ」

「あははっ、大丈夫。ちゃんと南波さんにキープしてもらってるから」
「マジですか田所さんっ! やったぁ!」

無邪気に喜ぶラムに、その場が和んだ。

<かわいい子だな>
サムの言葉に頷きながら――飛鳥に近づく矢倉が見え、顔が強張った。

「それ、新パッケージだろ。ちょっと見せてもらえる?」

手を伸ばした矢倉に、ラムがなんとなく言いにくそうに、身体を縮めている。

「あ、あのぅ、実はあたし、さっきスタジオの前で転んで、箱ぶちまけちゃって……」
「ええっ!? 樋口さん、商品は問題ないですか?」
ギョッとした飛鳥と矢倉が、箱を開けている樋口の後ろから覗き込む。

「ん、大丈夫です。緩衝材入ってるし、全然平気」
「よかったぁ!」

商品が樋口から飛鳥の手へ渡る。
飛鳥はそれを、矢倉へと手渡す……

「飛鳥さん、聞いてくださいよっ! あたし、どうして転んだかっていうとですねっ……」
「うんうん、後で聞くから、とりあえず仕事しよっか。矢倉さん、よろしくお願いします」

飛鳥は、僕を見ない。その視界に映るのは、別の男。

口の中にざらりと、不快な鉄の味が広がって。
きつく噛んでいた唇を緩めた。
飛鳥、君は想像したことがあるだろうか。
こんなにも凶暴な独占欲を、抱いてる僕を。
< 126 / 343 >

この作品をシェア

pagetop