ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
選考会は順調に進み。
最優秀賞、優秀賞、アイディア賞などの各賞を決定して閉会した。
その後、今後の打ち合わせを行うという飛鳥たちを残して、僕はサムをシェルリーズホテルまで送り届けるべく、自分の車へと乗り込んだ。
<日程は4月末なんだ。スケジュールは大丈夫そうか?>
あいつは飛鳥を送っていくんだろうか、ぼんやりと考えながらシートベルトをしめていると、そんな話になっていて。
<えっと何の話?>と、聞き返した。
<聞いてなかったのか?>
<ごめん>
<リリィって雑誌の読者イベントだよ。ライブでクッキングショーやるから、通訳頼みたいって、さっきから……>
呆れたようにサムが言い、それからくぐもった声で笑い出した。
<そんなに気になるか? フィアンセ殿を残してきてしまって>
ニヤニヤ思わせぶりな笑みを浮かべた男をぶん殴りたい気持ちを抑えて、平静を装った。
<なんで僕が気にするんだよ?>
<白状したまえ。原因は何だ? 喧嘩したんだろう? 今日はずっとおかしかったしな>
<喧嘩っていうか……別にそういうわけじゃ>
どう説明したらいいかわからず、口をつぐんでエンジンをかけた。
住宅街の細い道を抜け、車は繁華街の喧騒へと入っていく。
サムは、助手席のドアに体を押し付けるようにして、まだくつくつと肩を揺らしている。
<あのライアン・リーが、まさか女の気持ちを量りかねて悩む日がくるとはね>
<だからっ別に僕は――>
抗議の声は、<やめたまえ、友よ>と、ガバッと広げられた手に遮られた。
いや、前見えないから。