ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

<わたしにまで自分を偽る必要はない>
<いや、だから腕、邪魔>

芝居がかった仕草で両腕を広げるサムは、聞いちゃいない。

<悩め悩め、大いに悩め、若き友よ。それこそが愛の本質というものだ!>

あらゆる舞台芸術を愛するこの友人は、時々……面倒くさい。
これ以上ヒートアップするなら、ここ(駅前)で放り出してやる、と身構えたんだが――

<でもまぁ>

いきなり常温に戻った。
よくわからない。

<来週のバレンタインまでには仲直りしておけよ?>
<え?>
バレンタイン? なんで?

<窓際のとっておきの席、用意しておいてやるから>

窓際の……ってまさか、彼のレストラン、ル・パピヨンの、だろうか?

シェルリーズホテルと提携するレストランの中でも、最高の評価と売り上げを誇る、ル・パピヨン?
1年前から予約が埋まるという窓際の特等席、しかもバレンタイン当日?

さすがに簡単には信じられなくて、<本気?>と確認すると。

<独身最後のバレンタインだろう? 任せておけ、友よ>
ウィンクとともに、気持ちのいい答えが返ってくる。

<サム……>
<ハグするか?>

<だから、腕、邪魔>

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