ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
サムのおかげで、飛鳥の指にはまる瞬間を待つリングの存在を思い出した僕は、なんとか気分を持ち直し。
会社に戻るなり自分のスペースにこもって、ひたすら仕事に集中した。
余計なこと――飛鳥とあの男のこととか――は考えたくなくて。
どれくらい時間がたっただろう。
――みんなお疲れ~! 今帰りましたー
――亮ちゃんお疲れ様~! え、ナニコレ、お土産っ?
――そっ! 好きなの持ってっていいよ。
――うおっ! メインハーブシリーズじゃん、田所よくやった!
――あたしの食糧~!
――うひゃひゃお前、目の色変わりすぎ。
ガラス張りの壁の向こう、賑やかなフロアの声が聞こえてきた。
歩み寄って、指でブラインドに隙間を作ると、社員に囲まれた亮介が見える。
少し考えてから……ドアを開けた。
「亮介、今日はお疲れ様」
「あぁ専務! 通訳してもらって、助かったよ。大河原部長も感謝してたし。よかったらお土産、専務もどう? 樋口さんからたくさん――」
「ちょっと、いいかな」
ドアを大きく開けて、目で中を示すと。
意図を飲み込んだ亮介が、戸惑いがちに頷いた。