ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
ふいに、耳に装着した極小のイヤホンから貴志の声が流れ込み、ドキリとした。
『もしかして来ないつもりかな、どう思うライ?』
「さぁ、どうだろうな」
今の今まで、マユミのことなんてすっかり忘れていたことを押し隠し、僕はうそぶいた。
来なければいい。マユミが来なければ……
祈るような気持ちで、またタブレットへと視線を戻す。
彼女の方も、待ち合わせの相手がなかなか来ないようだ。
さっきから何度も腕時計を確認し、落ち着きなくあたりを見回している。
彼女もすっぽかされたんだろうか。
そうならいい。
もしそうなら……声をかけてみようか。
本気でそうしようと思ってる自分に気づいて、びっくりした。
あのストイックなスタイルを見れば、イージーな関係を好むような女性じゃないことは明らかだし。普段なら面倒くさいと思ってしまう類の女性なのに……どうしたんだろう、僕は。
とにかく、無性に彼女と直接言葉を交わしてみたかった。
彼女の視線を、意識を、自分に向けてみたくてたまらなかった。