ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

嫌いになって別れたわけじゃない、とか……
まだ好き、とか……

「あ、あの……専務?」
「え? あ、あぁ……ありがとう、参考になったよ」

上の空で答えた僕に、踵を返しかけて。
亮介が足を止めた。

「あのさ、専務……2人は、ほんとにただの仕事仲間、だから。あのぅ、今夜もきっと仕事の話、してるだけだから。喧嘩するなよ?」

「今夜?」

聞き返す僕を見て、亮介が両手でガバッと口を覆った。
「もしかして……知らな、かった……?」

「……何のことかな?」

無言の圧力をかけて睨むと、「やべえ」と彼の肩がしゅるしゅると落ちて行く。

「帰り……撤収の時にチラッとさ、聞こえちゃって。矢倉さんが真杉さんに、今夜空いてるかって予定聞いてて……真杉さんが、大丈夫だって」

ドクンッ……


飛鳥とあの男が、会う?
仕事以外の場所で?


「いや、だからほんと、喧嘩しちゃダメだって!」


亮介の言葉はもう、頭に入ってこなかった。

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