ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「あ、ただいまライアン……まだ起きてたの? 今日はありがとう、助かっ――きゃ!」
玄関でブーツを脱いでいた飛鳥を、そのまま力任せに抱きしめる。
飛鳥のカバンが床に落ち、中の物が飛び出したけれど。
気にせずそのまま髪へ頬へ、めちゃくちゃなキスを落とした。
「ん、ライ……待っ、……」
「心配、した。連絡ないから……事故かと」
「え? ご、ごめっ家電にメッセージ入れたんだけど……」
「イエデン? て、何? 江ノ電の親戚?」
身体を離して見下ろすと。
一瞬きょとん、と目を丸くした飛鳥は……ぷっと吹き出した。
「違う違う、家の電話ってこと。固定電話よ。うちのリビングにあるでしょ?」
「あ、あぁ……」
あれをイエデンというのか。
「携帯のバッテリーが切れて、使えなくなっちゃって。かろうじてここの番号だけは覚えてたから、外からメッセージ入れたんだけど……これから飲みに行くって。聞いてないのね、その様子だと?」
う……全然使ってないから、まったく存在を無視していた。
「ごめん。携帯ばっかり注意してたよ」
「ううん、私こそ……あの、心配させちゃった?」
「ものすごくね」
そっと額にかかった髪をかきあげてやると、潤んだ瞳が現れた。
上目遣いに僕を見つめる黒い瞳。
長いまつ毛が、ふるりと誘うように揺れる。