ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
飛鳥がこれほどおとなしく僕の腕の中にいてくれるなんて、久しぶりで。
ドクリと、身体の中心が妖しい熱を帯びる。
仕方ないだろう?
ここしばらくのストイックな生活を考えれば。
こんなささいな触れ合いですら、強い刺激になってしまう……
我慢は限界。
たまらず彼女の額に軽く唇を落とした。
「ん、ライアン……」
酔ってるんだろうか? 飛鳥は僕に身を任せ、気持ちよさそうに目を閉じてる。
ねえ飛鳥、その顔は反則だろう……?
頭の中ではもう彼女を裸にしながら、さらに腰を引き、その髪に唇を寄せ――ぎくりとした。
ほんのわずかに、タバコの匂いがしたから。
「ねえ飛鳥」
何気なさを装って、飛鳥を腕の中へ閉じ込める。
「今日は誰と飲んでたの?」
「え? あ、あぁあの……友達よ、昔の」
「昔の、ね?」
「あの、うん……そう」
こくこく頷きながら。
不自然に落ち着かない飛鳥の視線に、昂っていた身体が冷えていく。
「どうしてはっきり言わないんだ? 矢倉と一緒にいたんだろ」
断罪するような残酷な声音は、どうしようもなかった。
「な、んで……それ」
大きく開く飛鳥の瞳が僕を映す前に、視線を逸らした。