ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「亮介が教えてくれたんだ。矢倉が君を誘ってたって」
「亮介……田所さんね?」
「どうして隠すんだ? 元カレだからって、関係ない。やましいことがないなら、言えばいいだろう?」
「そんなことまで聞いたの?」
「聞いたよ。ゴールデンコンビで結婚間近だったそうじゃないか」
「昔のことよ」
「じゃあ隠す必要なんてないだろうっ!?」
つい声を荒げてしまった僕の腕を振りほどきながら、飛鳥が叫んだ。
「自分はどうなのよ!」
「……え?」
「私のことばっかり責めるけど、ライアンだって隠れて会ってたじゃない。シンシアとっ」
シンシア……?
どうして飛鳥が、それを知ってるんだ?
「図星って顔ね。やっぱり会ってたんだ?」
「どうして……」
「どうしてわかったかって? 女のカン、っていうか……香水よ」
「香水?」
「あなたから、彼女と同じ香水の香りがして。だから……」
飛鳥は言葉を切り、一瞬、何かに耐えるようにきゅっと唇を引き結んだ。
「だから、嫌だった。あの夜だけは、あなたに抱かれたくなかった」
あの夜、だけは……?
え……ちょっと待て。あの夜って、1週間前の……あれ?
たしかにあの夜、シンシアに会ってて。
じゃあ今の話が本当なら、あの時飛鳥が嫌がったのは、つまり……シンシアに嫉妬したからってことか?
「そんなことで悩んでたのか」
緩んでいく頬を自覚しながら、僕は彼女の腕を引いた。